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パブリックブロックチェーンの資金調達について

Note

Grinはビットコイン同様にプレマインなし、ICOなし、開発者報酬なし、ファウンデーションなしでローンチしており、Grinの開発に携わるコントリビューターには金銭的な対価がありません。そこで、Grinの開発者の一人であるYeastplume氏が6ヶ月間、Grinの開発にフルタイムで従事するために募金キャンペーンを行っていましたが、2週間ほど経っても目標額の10%も集まりませんでした。

現在は目標額を上回る金額が集まっていますが、この出来事はパブリックブロックチェーン開発の課題を如実に物語っています。

Grinが抱える資金調達問題

YeastplumeはMimblewimbleの開発者でGrinのコントリビューターです。半年間Grinの開発に専念するために€55,000(685万円)を募金で集めました。一ヶ月換算で115万円相当なので、一見大きな金額に見えます。しかし、パブリックブロックチェーンのコア開発者として従事できるようなエンジニアは、大手のIT企業やICOプロジェクト等のための働けば、この金額を遥かに上回る給与を得ることが可能です。€55,000の目標額は決して高い水準ではなく、むしろ控え目な額であると言えるでしょう。

Grinはこれ以前にも19年1月のローンチ前に第三者によるコード監査を行うための費用を賄う募金キャンペーンを行っていましたが、こちらも遅々として集金が進まず、最終的に大口の寄付者が現われてやっとお金が集まったという背景があります。

これに対してGrinの匿名創設者であるIgnotus Peverell氏が以下のような投稿をGrinのオフィシャルフォーラムに投下しました。以下は要訳です。

Grin周辺で起こっていることに失望している。もちろん、Grinは黎明期にあり、これが将来の方向性を示唆するものであるとは思わない。

Grinは我々がコントロールできるものについては、できる限りフェアにローンチするように努めてきた。Grinのミッションを信じている。また、プロジェクトを進めるためにはまだまだ助けた必要であるということも明確にしてきたつもりだが、未だにYeastplumeの募金キャンペーンには目標の10%も資金が集まっていない。

多くの資金を集めるのは大した開発もしないお手軽なスキャムICOで、マイニング産業からのコントリビューションを確保するには強制的に20%のリワードを開発者用に徴収するしかないことを、現状は示している。しかし、業界内にいる全ての人にこんな結論を痛感させるべきだろうか。強欲についてのレッスンしか得られないのであれば、この業界が長くて厳しい冬を抜け出すには長い時間がかかるだろう。

このポストは2年間渡って我々をサポートしてくれた極めて寛大で賞賛に値するこのコミュニティに対してのものではない。このポストはローンチ以後にGrin周りで活動し始め利益を得ている新しいファンド、マイナー、マイニングプール、取引所に対して行っている。

[SOLVED] Early disappointments - Announcements - Grin

BEAMが採用した資金調達手段

このポストがGrinと同じMimblewimble系のプロジェクトであり、Grinに先行してローンチしたBEAMを意識して書かれたものであるかは分かりませんが、BEAMはZcashに類似したシステムを採用しています。最終的に総発行量の12%がBEAMの開発チームに割り当てられる構造になっており、5年間で31,536,000GRINがTreasury Fundに充当されます。現時点(19年2月17日)で1BEAM=$1.2なので、これは日本円に換算して、41億8千万円となります。

全コインがプレマインで、最初から開発チームが大きなシェアを持つプロジェクトに比べて、BEAMやZcashのようにブロック生成毎に徐々に開発者に報酬が割り当てられる方式の場合、開発者による売り逃げがしづらく、コインの価格を維持するために開発を維持するインセンティブを設計できるというメリットがあります。

とはいえ、BEAMはローンチ以降5年間、ブロック報酬の20%が開発者に割り当てられ、総発行量の12%を得ることになりますが、「開発者報酬/総発行量」の割合は5年目20%、6年目18.46%、7年目17.14%、8年目16.00%、9年目15.00%、10年目14.55%となるので、依然として初期段階においては比較的大きなシェアを開発者が握っていることになります。

この記事を書いている間に、株式会社リクルートがRSP Blockchain Tech Fund Pte. Ltd.(シンガポール拠点)を通してBeam Development Limitedに出資を行ったことが発表されました。

リクルート、ブロックチェーン技術を対象にした新投資ファンドを通じ、機密情報に配慮したブロックチェーンを提供するBeamへ出資 | Recruit - リクルートグループ

詳細資料によると

本ファンドは、投資の対価として株式を取得するという形態以外の投資方法に着目し、トークンを用いて資金調達を行うスタートアップ企業への投資活動を通じて、ブロックチェーン技術の発展と普及を促進してまいります。

という文言があるので、リクルートはプライベートセールに参加し、ローンチ前に出資を行い、ローンチ後に開発者報酬の一部が支払われる形だと予想されます。BEAMは$10万以上という条件はあったものの個人でも参加できる形でプライベートセールを行っていました。

このような資金調達はGrinには実施できない方法であり、営利企業としてのベースがあるプロジェクトの利点です。というよりも、Mimblewimble系のプロジェクトとしてはやはりGrinに神秘性や正統性があるわけで、後乗りのBEAMとしてはこのような利点を活かして素早い開発を行わない限り、ポジションを確立することができません。邪道とみなされることの多い開発者報酬が存在する時点で大きなビハインドを追っているわけですから、開発速度でGrinに負けることは許されません。

DASHやDecredが採用した資金調達手段

BEAMやZcashの開発者報酬がローンチ後5年間に限定されており、6年目以降はゼロになるのに比べて、DASHやDecredはブロック報酬が続く限り、常に開発者報酬(=コミュニティファンド)が充当される設計になっています。

DASHは45%がPoWマイナーへ、45%がマスターノード運営者へ、10%がコミュニティファンドへ充当されます。
Decredは60%がPoWマイナーへ、30%がPoSバリデーターへ、10%がコミュニティファンドへ充当されます。

コミュニティファンドの使い方についてはここでは詳述しませんが、主にトークンホルダーの投票によって決定されます(とはいえ、完全に分散されているとは言い難い状況ではあります)。

Warning

DASHはローンチ後の24時間で現在の供給量の22%が発行されてしまい、しかもその後ハードフォークが行われずに、大量発行されたDASHがそのまま放置されたインスタマイン問題があります。

Tip

Decredは総発行量の8%が4%ずつ、コミュニティメンバーと主要開発企業であるCompany 0に分配されています。

時価総額上位プロジェクトの資金調達手段

現時点で上位10位以内のプロジェクトが採用している開発者のための資金調達手段について見てみましょう。

プロジェクト 資金調達
Bitcoin コントリビューション
Ethereum プレマイン
Ripple プレマイン
Litecoin コントリビューション
EOS プレマイン + コミュニティファンド
Bitcoin Cash コントリビューション
Tether 利子+手数料
Tron プレマイン
Stellar プレマイン
Binance Coin プレマイン

2ブロック目以降のブロックリワードの割り当てられ方に注目すれば、Ethereum, EOS, Tronは初期のファウンデーションへの資金割当はプレマインによって行われますが、ローンチ以後はPoWマイナーやPoSバリデーターに報酬が割り当てられる構造になっています。ただし、これらの報酬は開発者ではなく、マイナーやバリデーターに割り当てられているので、その点ではビットコインやGrinと同様です。

コントリビューションによって成り立っているプロジェクトは意外と多く、ビットコイン、ライトコイン、ビットコインキャッシュが挙げられていますが、ライトコインやビットコインキャッシュはビットコインの大口保有者や暗号通貨への初期参入によって財を成したであろう人間によって開発されています。その意味で、ビットコインとライトコイン/ビットコインキャッシュは区別されるべきでしょう。そもそもライトコインはビットコインのコードをベースにしており、ビットコインキャッシュはビットコインのフォークです。つまりビットコインが築いたコードやネットワーク等の資産を流用することで、ゼロからスタートしていれば必要となる膨大な開発資金やネットワーク普及活動資金を削減しているわけです。

Ethereumについても同様で、MetaMask, Infura, Truffle等の重要なインフラを提供しているConsenSysはEthereumからブロックリワードを開発者報酬として得ているわけではありませんが、CEOのJoseph LubinがEtherを始めとする暗号通貨長者であることと、Etherの大口所有者としてEtherの価格が上がるような活動をするインセンティブがあったことは念頭に置いておくべきでしょう。Etherのプレマイン比率は現時点でも68%ですから、かなり大きい点には注意が必要です。

また、話は逸れますが、初期の開発者、マイナー、保有者の全員が金の匂いを感じずに、プロジェクトに従事していたプロジェクトはビットコインのみであり、その後、大きな価格上昇によって保有リスクに見合うリターンを成し遂げたのもビットコインのみです。故に、Grinがどれだけフェアなローンチを謳っても、金の匂いは消えず、ビットコインの後をなぞることができるプロジェクトは今後も現われません。

パブリックブロックチェーンの資金調達の今後

プレマインコインの売却益や先行者利益の再投資なしでパブリックブロックチェーンの開発費用を持続的に賄っていくのは極めて難しいです。

Poloniex lists Grin, commits to share transaction fees for 1 year

Poloniexが手数料の25%~50%をGrin General Fundに寄付することを発表されましたが、これもGrinのようなまともなコインが活発に開発されることによって間接的に利益を得られる取引所の新しい貢献の形と言えるでしょう。

ビットコインが多くの人に支持されるのは、明確な利害関係者の存在感が他のコインに比べて薄く、特定のステークホルダーの手を離れた結果として、公共財としての性質を帯びているからだと私は考えていますが、裏を返せばそれはビットコインが特定の支持母体なしに継続的に開発されてきたことを意味します。途中からは自身が保有するBTCの含み益を守るため、あるいは増やすためという動機を持っていたエヴァンジェリストもいるでしょうが、それでも他のあらゆるコインと比べてみても、金の匂いは圧倒的に少ないです。

公共財になるためには、文字通り公共的にネットワークが育てられる必要がありますが、それは金銭的インセンティブの不在と表裏一体です。もちろんビットコインのネットワークはマイナーに対してはセキュリティへの貢献の対価を支払うわけですが、開発者報酬は存在しないので、ネットワークとマイナーの間に存在するインセンティブ整合性と開発者の自発的な貢献意欲は明確に区別する必要があります。

これは地球上に存在する電力は有限であるため、電気を喰い続けるPoWの乱立には上限があるように、地球人の自発的な貢献意欲にも上限があるので、真に公共財としての性質を持つパブリックブロックチェーンの併存にも上限があると考えるのが自然でしょう。

このようにパブリックブロックチェーンはネットワークの発展と開発者の生活の両軸を持続的に回し続ける仕組みの確保の難しさや人間の貢献意欲という資源の希少性とそれにタダ乗りするフリーライダーの存在などの様々な要素が絡み合っており、しかもそれらはトレードオフの関係になっていることが多いです。それゆえにフェアなローンチと運営を目指す新規のチェーンがこの困難を超えるのは難しく、ビットコインの特異性が際立つことになります。

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